2010年11月4日木曜日

カツ丼って・・・

『スイマセン、旦那!ヤッパリ旦那には嘘はつけませんや!アッシがやりました!』
カツ丼を頬張りながらヤツは鼻水と涙を流しながら話しだした。そう言いながらも丼を口元に抱え込み、少し冷めたカツの切れ端で器の縁についた飯粒をすくい取る様にして口に運んでいる。
『ここ二三日食ってなかったんだろ。話は食い終わってからだ、ゆっくり味わえ!』俺はそう言って足を組み直した。
ヤツとここで向き合うのは、これで三度目だ。


なーんてシーンがTVドラマの刑事物、取り調べ室のシーンではパターンでしたね。
もちろん、現実には被疑者に供応して調書をとるなんてありえないそうですが。


それにしても、なぜカツ丼なんでしょう。
蕎麦でもラーメンでもなく、カレーでも天丼でもない。
思うにあのタマゴでとじて、和風ダシで煮含めた味が決め手なんでしょうね。
カツの油こさが消えて、タマネギの甘み、添えられた三つ葉の青さが寒々しい取調室に家庭料理の雰囲気を醸し出すんじゃないかな。
親子丼は簡単に家で作れるから、それよりチョットだけ高級感がありよそ行き感を感じるっていうのもあるかな。
これが天丼だとふやけた衣が脂っぽくて、出前で取調室に来たころには冷めて美味しくない。
その点カツ丼は、冷めても衣にダシがしみ込んで脂とハーモニーを奏でるんです。
ソースカツ丼ではこうは行きませんよ〜!


 カレーの様な刺激物はファイトが湧いて、黙秘を続けそう。
冷めて伸びたラーメンは間違いなく論外。
蕎麦は香りが部屋にこもらないし。
冷めても美味しく、ある意味違う次元の美味しさが出て来るカツ丼は、うっすら甘いダシにカツの脂とタマゴの香りが部屋に充満して来て、我が家、家族、母の思い出を呼び覚ましそうです。
そう考えると、最初に取調室のシーンにカツ丼を登場させた脚本家って凄いなあ〜と感心します。


とまあ、そんな話はどうでも良いんですが、実は昨夜久々にカツ丼を食べました。
知り合いの作品展を銀座に観に行って、帰りに夫婦で『梅林』というお店で戴きました。
普段、丼ものってあまり食べないんですけど、通りかかってたまには食べてみようと思って。


 こちらのカツ丼はワタシがイメージしていたとおりの、まったく奇をてらわない真面目なカツ丼でした。
薄く切ったタクアン、チョット煮くずれた豆腐が入った赤出汁みそ汁等、高級感こそ無いものの真っ当な味。
銀座と言う土地柄ちょっと高いけど、千円以下。
B級グルメの王道、庶民の贅沢、と言う感じがしますね。
お店も気負わずに入れて、カウンターの中では無口な初老の職人さん達が黙々とカツを揚げ、お姐さん達が注文を伝える声が賑やかに響きます。

ハイ、美味しかったです。


 こんな店ではやはり黙々と食べてさっさと次の客に席を譲るってのが、暗黙のマナーの様な気がします。


エッ・・?  
イヤイヤ、別に妻に取り調べを受けてた訳じゃないですよ!



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